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齋藤 雄一 騎手(岩手)

2012年10月05日

齋藤雄一騎手は今年でデビュー11年目。現在岩手の騎手リーディング2位につけている成長著しい中堅ジョッキーだ。2009年度は53勝でリーディング10位。2010年度は75勝で6位。徐々に勝ち星を増やしてはいるが不動のTOP3(菅原勲元騎手・小林俊彦騎手・村上忍騎手の上位常連)の域にはまだ少し......。そんなポジションに落ち着きかけていた齋藤騎手が、昨季は106勝で一気にリーディング2位に浮上し、俄然周囲の注目を集める存在になった。その"伸び"の要因はどこにあるのか? それがやはり最も齋藤騎手から聞いてみたいことだろう。そしてもうひとつ。彼は元々、2001年度限りで廃止となった新潟県競馬でデビューする予定の候補生だった。そんな"秘話"の部分にも触れてみたい。

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横川:競馬学校に入る前、中学校ではバレーボールの選手だったんだよね。

齋藤:小学校からずっとバレーボールをやっていて、結構名門のクラブにも入っていました。中学の時には県の選抜選手にも選ばれたんですよ。

横川:そのままバレーを続ける、という道もあったと思うんですが、なぜ騎手になろうと?

齋藤:実家(新潟県新発田市)の近くに小さな牧場があったんですよ。馬は2、3頭くらいで、新潟県競馬に持ち馬を何頭か出しているくらいの本当に小さなところでしたが、そこで遊んでいるうちに馬という生き物に惹かれるようになって。それが中1くらいの頃かな。

横川:そこから"よし、騎手になるか"ということに?

齋藤:競馬っていうのはあまり知らなかった。ゲーム......ダビスタをちょっとやったことがあるけれどそれと実際の競馬や騎手を結びつけて考えたことはなかったです。ただ、身体はそれほど大きくなかったから、騎手はそれでもできる職業だということは知っていたし、それにうちの親がね、"自分できちんとお金を稼げるようにならないと半人前"みたいなことを常々言っていたんです。じゃあ騎手がいいな、と。でもいざ競馬学校に行きたいって言うと猛反対されましたけどね。

横川:ご両親としてはもっと違う職業を考えていたのかな。

齋藤:いや、やっぱりもうちょっとバレーを続けて欲しかったんでしょう。クラブの周りの子達もそうでしたからね。でもあの頃の自分は"高校に行ってもな~。別に学歴とか関係ないしな~"とか考えていて。今になってみると高校には行っておくべきだったなと思ったりしますけど、小さい頃はね、そんなところまで考えが回らなかった。

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横川:そして新潟県競馬でデビューする予定だった......。

齋藤:横山稔先生の厩舎ですね。きちんとした形で厩舎にいたのは実習の半年くらいだったけど、中学校の頃からちょくちょく出入りしていました。

横川:それが、新潟県競馬が廃止されるという話になっていった。

齋藤:新潟でデビューできないということになって、もう辞めようと思ったんですよ。地元で騎手になれないのなら続けてもしょうがない、つまらないよって。そんなことをポロッと話したら稔先生に怒られた。"今は我慢しろ。競馬学校はきちんと卒業するんだ"って。稔先生がそう言ってくれなければ騎手になっていなかったかもしれない。

横川:そこから岩手に来たのは?

齋藤:横山稔先生が岩手の福田秀夫先生と同期ということで紹介してくれたんですが、その時には福田厩舎にも候補生(高橋一成元騎手・2002年秋にデビュー)がいたので、じゃあ小西先生のところで......となったんです。

横川:今にして思えば、そこで辞めずに騎手を続けていて良かった?

齋藤:んー。最初の頃はですね、新潟から一人で来て知らない土地で生活しなければならなかったし、新潟県競馬と岩手競馬の雰囲気の違いのようなものになじめない時期もあったし。毎年毎年辞めようかどうしようかと悩んでいましたね。思うような成績を挙げられない。レースに乗せてもらえない。新人の頃はそういうことで余計に悩むじゃないですか。

横川:デビュー間もない頃に怪我をしたりしてね(2003年、足の怪我により3ヶ月騎乗できず。その年は結局、デビューした前年よりも成績を落として終わった)。あの時は「このまま浮上できずに終わるかもしれない」と心配したよ。

齋藤:いや、自分はそんなに難しく考えてなかったですよ。若かったし、自分一人だったし、なるようになるだろうと思ってた。

横川:まあ、怪我したおかげでいい奥さんを見つけたから結果オーライか。やっぱり結婚が転機じゃない?

齋藤:周りにもそう言われる。小西先生にも結婚して変わったなって言われました。自分で振り返ってみてもやっぱり結婚したことが大きかったかな。その頃はまだあまり勝てない、稼ぎも少ない頃だったから、"こんな自分で家族を養っていけるのか?"といつも考えていた。今年ダメだったら騎手を辞めよう......。いい成績を挙げなきゃ。ヘマをしていられない。毎年その繰り返しでしたからホント競馬に集中していましたね。

横川:辞める話が頻繁に出てきてヒヤヒヤするね。でも、やっぱり家族が支えなんじゃないの? 結婚して子供ができて、それでガラッと変わったと思うよ。

齋藤:周りに"齋藤は結婚してがんばるようになった"と思われるようになって、ちょうどいい結果も出ているから、余計にそう見えるんじゃないかなあ。でもですね、子供に言われたんですよ。「レースのお父さん、カッコイイね」って。自分があまり勝ててない頃にそう言われてちょっとハッとした。自分たちは普通のお父さんじゃないじゃないですか。土日も一緒にいられないし。そんな自分が子供に何かを伝えるとしたら、レースでがんばっている姿を見せるしかない。"背中で魅せる"って言うと格好良すぎだけど、子供達にはカッコイイところを見せたい。だからがんばらなきゃと、それ以来思うようになりましたね。

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横川:この3年くらいかな、勝ち星がグンと伸び始めて。そんな大ブレイクの理由はどこに?

齋藤:やっぱり家を建てたからかな〜。

横川:また家庭かい!

齋藤:やっぱり言われますもん。「家庭が充実してるからな」って。一昨年は"家建てたからがんばるぞ"。今年は3月に3人目が生まれたから"もっとがんばろう"。家に帰って子供の顔を見てるのが一番のストレス発散になりますからね。家庭が原動力なのは間違いないです。

横川:でも、去年からの大活躍はそれだけが理由とも思えないけど。

齋藤:自分でもあまり実感がないというか......。騎手の数も減ってますからその分でもあるだろうし。固め打ちする馬に何頭も当たったということでもない。ただスランプと言うか"勝てない間隔"が短くなっていったな......とは感じてました。今年は去年以上にコンスタントに勝てていて、楽しくレースができています。なにより心理面で進歩しているという実感がありますね。ゲートに入ると余計なことはサッと忘れてレースに集中できるようになった。技術面はまだ何とも言えないけど心の面は変わったと思う。

横川:最近はね、「雄一に任せておけば」「雄一なら」と厩舎の評価も高い。成績も伴っているし。

齋藤:それはそれでプレッシャーもありますけどね。"ホントに俺でいいの??"って思う部分はまだある。まあでも、結果が良いから周りの見る目が変わっていく......という好サイクルになっているんですよ。自分では昔も今も努力の質が変わっているつもりはないんですが、いい結果が出ているから周りの評価が変わって、それがまたいい結果に繋がっている。いろいろなことが良い方向に向いているんだな、って。

横川:このままなら少なくとも盛岡のエース格は間違いない

齋藤:盛岡で、っていうか、全体のエースでありたいですよ。村上(忍)さんに負けているのは正直言ってもの凄く悔しいです。去年なんかも村上さんに勝ちたい勝ちたいって思って2倍努力してダメで、じゃあ3倍努力すれば勝てるかと思ってやってみたけどやっぱりダメで。今は何が足りないのか分からなくなってるくらいで......。

横川:齋藤騎手は負けず嫌いだからねえ。

齋藤:まあやっぱり負けるのは嫌ですからね。負けないために必死で努力してる......というところはありますね。

横川:さて、この後の目標を聞かせて下さい。

齋藤:厩舎と自分のダブルリーディング、かな。厩舎のリーディングは、自分が来る前は獲ったことがあるそうですが、自分がデビューしてからは一度もないんで、今年はわりといいところにつけていますし、自分もここまで育ててきてもらったからそろそろ貢献できるんじゃないかなと。自分のリーディングの方は、"それが目標!"と思っていてもあまり意識しない方がいいかもしれませんね。

横川:SJT(スーパージョッキーズトライアル)のワイルドカードにも出場しますね。

齋藤:出場する騎手の名前を見るとなんか凄いですね。でも楽しみにしてますよ。ただなあ。自分、こういうイベントっぽいレースは弱いんですよね。どうなるかなあ......。

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ジョッキーズチームマッチ第2戦は12番人気のヤマニンエグザルトで勝利

そんなことを言いながら向かった高知でのSJTワイルドカードは総合5位。SJT出場権には手が届かなかったが、今の齋藤騎手らしい戦いぶりは演じてきたのではないだろうか。
今年7月に盛岡競馬場で行われた騎手対抗戦「ジョッキーズチームマッチ」では12頭立て12番人気の馬を勝利に導いてファンをあっと言わせた。8月には重賞・若鮎賞を制して大レースでも存在感をみせる。勝ち星の数だけでなくファンの記憶にも残る騎手へ。それが今の彼を押し上げる"好サイクル"の現れなのだろう。

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※インタビュー・写真 / 横川典視

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