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安部 憲二 騎手(ばんえい)

2013年04月05日

ばんえい競馬は平地競馬に比べて騎手の技量が結果につながる割合が高いという面がある。となると、頼りになるのは経験豊かなベテランジョッキー。そのひとりである安部憲二騎手は、騎手会副会長としてばんえい競馬を盛り上げる役割も担っている。

安部騎手は2012 年12 月2日にフジテレビ/関西テレビ系列で放映された『ほこ×たて』で、ばんえい競馬の威信をかけて「絶対に滑らない最強のゴムシート」と戦った。

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対戦の話があって、出す馬はテンマデトドケ(服部義幸厩舎)に決まったんですが、その主戦騎手の長澤(幸太)くんが「テレビだと緊張してしまう」と言い出して、それで関係者全体で話し合った結果、僕が手綱を取ることになったんです。全国放送ですから、なんとしてもアピールしなきゃと思ったので、どんなパフォーマンスができるかという問い合わせには、いろいろ提案しましたよ。そのひとつが綱引き。相撲部やら柔道部やらアメフト部の人が来て対戦しました。放送上ではテンマデトドケが圧勝していますが、じつは1回負けているんです。馬って、体が前に進むようにできているから、ふっと力を抜いたときに後ろに引っ張られると対応できないんです。

そういった経緯がありつつも収録は進み、本番の勝負では快勝となった。

ソリが軽すぎるとゴムシートに乗せたその前部が浮き上がってしまうので、荷物と合わせた総重量は800kgに設定しました。それでもまあ勝てるかな、とは思っていましたけどね(笑)。ばん馬のすごさを宣伝することができてよかったです。

テレビ収録が初のコンビながら好結果。ばんえい競馬では平地以上に人と馬とが呼吸を合わせることが重要だ。

いちばんの基本はまっすぐ進ませること。次の基本は負荷をかけるメリハリですね。叩く、すかす、しゃくる。第2障害を降りてからの5m、10 mの間に、その3つのうち、その日のその馬はどれがいちばん反応がいいのか判断するんです。「すかす」は手綱をゆるめる動作。「しゃくる」は、荷物を曳いているとだんだん頭が下がってきますから、その頭を起こす動作ですね。馬は気持ちで頑張りますから、それを感じてやらないと。あとはハミ。ハンドルにもアクセルにもブレーキにもなりますから、正しいハミ遣いができるかどうかで、100の能力が20にも120にもなるんです。

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北見記念ではギンガリュウセイを連覇に導いた
写真●ばんえい十勝

ばんえい競馬において、そういった技術を習得するには、たくさんの経験が必要だ。

ばんえい競馬は親類関係などの絆がとても深いんですが、僕はそれを持っていませんでした。それもあって、減量がなくなってから2年くらいは、厩務員として担当している馬でレースに出るのが大半。だから何かきっかけを作ろうと考えましたよ。それで行き着いたのが、人前に多く出るということ。用もないのに調教コースに行って、いろいろな人と話しました。そういったなかで、だんだん結果が出てきたように思います。あと、ばんえい競馬はその馬のことを知っていないと、というところがあります。だから絶えずレースVTRを見て、現役馬を全て覚えました。今でも調教中に見える馬とか、その名前などがわかりますよ。

手綱を取る役目がいつ来てもいいように準備する。それが「テン乗りの安部」という異名につながっているのかもしれない。

勘はよく当たるほうかな、とは思っていますけれどね。でもそれも必要なことで、第2障害を越えさせるための技術は、瞬間芸のようなものだと思っているんです。能力的に抜けているわけではない馬を、ロスなく上げさせるためにはどうすればいいのか。第2障害に挑むとき、馬は前傾姿勢になりますから、ヒザをつく可能性が高くなるんですよね。そうなる手前のギリギリのところで手綱を一気に引っ張って体を起こすんです。そのタイミングの見極めが、瞬間芸という意味ですね。自分としては、第2障害に自信を持っているんですよ。

宮城県北部出身の安部騎手が北海道に来てから30 年が経った。そのなかで、調教方法も少しずつ変わってきているらしい。

馬の背中に乗って運動させることが減りましたね。以前は朝にソリを曳いて、夕方は乗り運動でした。競馬場の平地コースで競走したこともありますよ。でも乗り運動は、馬を御す上で重要なことだと思うんですよ。要は人間も馬も慣れなんですが、人が乗らない、だから馬も慣れないという流れになってしまっている気がしますね。

何しろ相手は強大なパワーの持ち主。信頼関係を築かないと人間が危ない。

去年(2012年)の夏、馬に蹴られてしまいました。そのときは馬場入場時にトラブルがあって、それでもスタート地点に着けたことで気が緩んだんでしょうね。いつも通り、ソリの横でレース前の準備をしていたその場所が、普段よりすごく前。そうしたらいきなり後ろ脚が飛んできたんです。瞬間的に防御の構えをとりましたが、左手の指が裂傷、右手の甲の軟骨が変形してしまいました。

人と馬が寝食をともにしてきたばんえい競馬。そこで安部騎手が重ねてきた勝利は1100を超えた。2012 年はギンガリュウセイとのコンビで重賞を2つ勝利している。

帯広記念(2013 年1月2日)は2着でしたが(優勝馬カネサブラック)、あれは悔いが残りました。直前に出走を回避するかもという話を聞いていたので、第2障害で馬に無理をさせていいのか葛藤があったんです。でも馬の様子を確認すると大丈夫そう。それで仕掛けたら、ふた腰で越えてくれました。でも、僕のその気持ちのロスがなかったら、勝てたかもしれないんですよね。だからこんどは大きいレースで、強い馬を負かしたいと思っているんです。

「考える時間は長いけれど、判断は一瞬。そして少しのロスの積み重ねが大きな差になってしまう」という難しさがばんえい競馬にはある。馬は大柄でダイナミックだが、サラブレッドと同様に繊細で敏感なのも特徴だそうだ。だから騎手にもそういった感性が求められるとのこと。力任せに進めばいい、というわけではないのは平地競馬と同じ。スタートからゴールまでの間に機微が詰まっている、世界で唯一の奥深い競馬である。

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取材・文●浅野靖典
安部憲二 (ばんえい)
あべ けんじ
1967年5月3日生まれ おうし座 B型
宮城県出身 岩本利春厩舎
初騎乗/1993年4月17日
通算成績/11,791戦1,125勝
重賞勝ち鞍/北見記念(2回)、旭王冠賞、ばん
えいグランプリ、ばんえいダービー、ばんえい
オークス、ばんえい菊花賞、ばんえい大賞典、
イレネー記念、チャンピオンカップなど22勝
服色/胴白・緑一本輪、そで白緑縦じま

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※2013年2月28日現在
(オッズパーククラブ Vol.29 (2013年4月〜6月)より転載)

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